魚を絞めると、ホントに味が違うのか?

今回の研究内容は、魚を絞めた場合と絞めなかった場合の味の違いである。

実験は、2007/6/9石廊崎(所長のレポートあり)で、実釣・活き絞めを行い、 翌2007/6/10午前8:00に内蔵とエラを取り除いた、メジナ・イサキ・ブダイの3種類を用い行った。

 【絞め方】

今回は、エラからナイフを入れ、目の後ろ脊椎の上あたりを一撃。
目がクリクリっと動いて、魚が一瞬でクタっとしたところで「活き絞め」とし、更に、尾の付け根あたりにもナイフを入れ、 血の抜けをよくしている。
尚、魚の大きさは、イサキ&メジナ37〜38センチ、ブダイ45センチ程度である。
絞めた後は、新聞紙に包み、氷を入れたクーラーボックスで保存した。
比較対象魚は、釣り上げたら何もせずに、新聞紙に包み、氷を入れたクーラーボックスで保存した。

【検証(イサキ)】
味を検証する前に、まず内臓を取り除く時点で大きな差が見られた。
活き絞めを行ったモノは、腹の中の出血が少なく、内臓も綺麗であったのに対し、 そうで無いモノは、明らかに出血が多く見られ、内臓は黒ずみ、腹の中を水で洗い流す際も多量の赤色の水が流れ出た。 これは、メジナ・ブダイにおいても同様であった。

次に身の見た目である。
こちらは、2007/6/11午後9:00のイサキの刺身である。

右上の刺身の方が、全体的に身が桜色で、赤い部分も鮮やかである(実物は写真以上に差があった)。
差がわかりやすいように、アップの画像を見ていただこう。

上側が絞めた魚の身である。
確かに、こちらの方が美味しそうに見える。

味の検証
がしかし、食べてみるとはっきりとした差は感じ取れなかった。
もちろん、どちらも旨かった。
イサキぐらいのサイズだと、氷絞めで充分ということなのだろうか。
絞めた方が美味しいというのは、見た目の違いから受ける印象も含まれている可能性もある。
メジナ・ブダイと検証を進めていきたい。

【検証(メジナ)】
こちらは、2007/6/12午後9:00、メジナを3枚におろしたところの骨側の画像である。

こちらはサク取りし、皮をひいた後の皮側。

どちらも、左が絞めた魚の身である。
やはり、メジナも絞めたモノの方が明らかに美味しそうな色をしている。
白い部分は全体に綺麗な桜色を帯びており、血合い付近の赤い部分がより鮮明なのは、イサキと共通の絞めた魚の特徴と言えそうだ。

味の検証
メジナは、食べてみると味に違いを感じた。
絞めたモノは、身が硬めで歯ごたえがある。
絞めてない方は、身が柔らかく、甘みが強い。
シコシコして新鮮と感じるのは絞めた方だが、私には絞めてない方が美味しく感じた。
これは、絞めない方が熟成が早いということかもしれない。そのぶん、痛みが早いのかもしれないが。

【検証(ブダイ)】
こちらは、2007/6/13午後9:30、ブダイを3枚におろしたところの骨側の画像である。

こちらは刺身にしたあとの様子。

どちらも、右が絞めた魚の身である。
やはり、ブダイも絞めたモノの方が明らかに美味しそうな色をしている。
白い部分は全体に綺麗な桜色を帯びており、血合い付近の赤い部分がより鮮明であり、これを絞めた魚の特徴と言って良さそうだ。

味の検証
ブダイも、食べてみると味に違いを感じた。
絞めたモノは、身が硬めで歯ごたえがある。
絞めてない方は、身が柔らかく、甘みが強い。
メジナ同様、シコシコして新鮮と感じるのは絞めた方だが、私には絞めてない方が美味しく感じた。

【結果】
今回の実験においては、メジナ、イサキ、ブダイにおいて、釣れている時に時間をさいてまで魚を絞める価値を見いだせなかった。
ただし、今回の検証では、絞めてない魚も、きちんと氷詰めにして、24時間以内にエラ・内臓を取り除いていることをお断りしておく。

【考察】
 まず、魚を絞めた場合と絞めない場合で、何が違うのかを考えてみたい。
絞めた場合、瞬間で絶命するのだから、生きたままの状態の身が冷蔵保存される。
一方、絞めなかった場合は、魚は窒息死することになる。 そうすると、体中の細胞は酸欠状態となる。 この酸欠状態が、身の色味を悪くしているのではないだろうか。 絞めた方が赤みを帯びていることにもつじつまが合う。
また、絞めなかった場合、絶命までの過程で魚がバタバタ暴れるので、身や内臓に内出血を起こし、傷みを早める可能性が考えられる。
 絞める事によるもう一つの違いは、血抜きが出来ることである。 これによって、内臓や血管からの腐敗を遅らせることが出来るのではないだろうか。 こう考えると、血合い部分の身の色が、絞めた魚の方が鮮明なことと、つじつまが合う。
 ここまで来て、なぜ結果として絞めた方が美味しいとならなかったのかを考えてみる。
まずは食べるまでの時間が考えられる。絞めたことによる変化を考えれば、味に差が出るのはより時間が経ってからなのではないだろうか?
そう考えると、食べきるまでに何日もかかるような大型魚こそ、絞める必要があるのかもしれない。
それから、食感をを大切にするのか、味を楽しむのかという趣向の違いも考えられる。 味が無くてもシコシコした食感こそが新鮮で美味しいと感じるのであれば、今回の結果は逆転してしまう。 明らかに絞めた魚の方がシコシコとしていたからだ。

 では、何故一般的には絞めた方が美味しいとされているのかを考えてみたい。
○一般の認識に誤解が無いか?
一般に絞めた魚と言われているのは一本釣りで釣った魚で、絞めてない魚は網で獲ったモノではないのだろうか?
だとすれば、絞めた絞めない以上の差がそこにはあるはずである。
網で獲る程の量だと、氷漬けにしても充分に全体を冷やせない可能性がある。
また、下の方の魚はかなりの重さで圧迫されることになる。
更に、刺し網などの場合、網に引っかかって死んだ状態で一晩海中に放置されている。 海水温は10〜20度程度はあるから、水揚げ前に痛みが相当進むと考えられる。
○新鮮な魚をいつでも食べられる人と、滅多に食べられない人の違い
神津島でスマガツオを釣った時に、地元の漁師さんに「スマガツオは血を抜くな」と言われた。 更に、彼らはそれを数日熟成させてから食べている。
つまり、常に新鮮な魚を口に出来る環境の人にとっては、熟成の進んだ魚の方が美味しいのである。
一方、なかなか新鮮な魚を口に出来ない人は、「シコシコ」という新鮮であることへのありがたみが強いのではないだろうか。
○魚種による差
みなさんは釣りたてのマグロを食べたことがあるだろうか?釣りたてのマグロは、味が無く、弾力が強く、まるでコンニャクのようである。 熟成させることで、あのマグロの味と食感が産まれるのだ。
熟成が必須だからこそ、あれだけきちっとした処理法が必要なのではないだろうか?
赤身の魚と白身の魚では、活き絞めによる効果の差に違いがあると考えてもおかしくないだろう。
また、臭みのある魚や、痛みの早い魚の場合も、絞めた方が良いと考えられる。
○時間を置けば結果は違ったかも?
今回の実験では、釣り上げた後、2〜4日以内に食している。
この期間では絞めていないモノの方が熟成が進んだ旨みを感じたが、 更に日を置いた場合、絞めた魚の方が美味しく熟成される可能性は充分にある。
○視覚による影響は無いか?
料理にとって見た目は重要である。したがって、絞めた魚の方が美味しいという中に視覚の影響はないだろうか?
また、色味の悪い刺身を出すようなお店では、仕入れも、料理の質も低い可能性が考えられる。

【結論】
我々がメインターゲットとしている魚に限って言えば、釣ったらすぐに氷漬けにすれば、あえて絞める必要は無い。
ただし、色味が大切な場合、個人の好みによって食感を大切にする場合、食べる時期が遅れる場合は、絞めた方が良いと思われる。

【提案】
私は、今回の実験で、メジナやイサキ、ブダイなどの魚において、魚を絞めることの必然性を見いだせなかった。
しかし、この結果に異論を持つ人も多いと思う。
そんな方は、是非、ご自分で実験して欲しい。そして、「あれ?絞めなくても美味しいじゃん」と思ったか、「やっぱり絞めないとダメだよ」と感じたか 報告していただけるとありがたい。
 (2007.6.18)

●読者より頂いた情報
あまり小さな魚では感じられないけど、 きちんと締めた魚のほうが旨みは強くなります。
悶絶死した魚はアデノシン3リン酸が減少し、 旨みとなるイノシン酸が生成されにくくなるのが理由ですね。
そして、肝心なのは、死後硬直が溶けてから食べること。締めることによって死後硬直の開始時間を遅らせることになります。締めないと、それだけ早く死後硬直が始まります。 死後硬直が溶けないと、旨み成分のイノシン酸やアミノ酸、ペプチドなどが出ないので、固い(コリコリ)だけで味は感じられないでしょう。今回の実験の差はそこにあると見られます。
あと、血を抜いたほうがやはり臭みは少ないと思います。夏場の口太などはかなり臭いと感じますね(風味と感じる人もいるけど)。
ま、暴れさせずに塩氷水(真水は不可。浸透圧の問題でね)で即死させて、早く食べればそこそこOKだとも思いますけどね。
でも、僕みたいに大物ばかり釣る人は締めることをお勧めします。