水産増殖 46(3),371-372(1998)
短報

体長組成の月変化から推定したメジナ
幼稚魚の伊豆半島沿岸域における動態

吉原喜好*1
(1998年7月23日受理)

Population Dynamics of Juvenile Nibbler,Girella punctata,
at Coastal Waters of Izu Peninsula

Kiyoshi Yoshihara*1


日本水産増殖学会

1998年9月
Abstract: Size distribution in body length of 7,376 juvenile nibbler, Girella punctata Gray captured in the period form March to August, 1981, 1988, 1996 and 1997 at costal waters of Izu Peninsula was analyzed for a better understanding of their population dynamics. In March and April,the fish captured at rocky beaches was significantly larger than those at breaking zone and tidepolls. However, during the period from March to Augusut, the smaller fish also joined the rocky beach population and those ranging from 1 to 2 cm were always found at breaking zone and tide pools. These results strongly suggest that the juvenile nibbler change their inhabitation from breaking zone and tide pool to rocky beaches as they grow up.

Key words:Juvenile nibbler; Body length; Tanoura inlet


*1 日本大学生物資源科学部(College of Bioresource Sciences, Nihon University,Kameino 1886, Fujisawa, Kanagawa 252-8510, Japan).

メジナ、Girella punctata Gray幼稚魚の初期成育段階における生活の場が沿岸域の タイドプールあるいはその近傍の砕波帯であることはよく知られており、森1) は干潮時にタイドプールに取り残された幼魚のなわばり形成と順位形成過程を、また奥野 2)は昼夜移動、摂餌習性、なわばり形成などを報告している。 一方、吉原ら3)は標識放流したメジナ幼稚魚の再捕時の状況から沿岸域 から沖合域へ生活の場を変化させる時期の成長曲線を導き出しているが、沿岸域に到着してから そこを離れるまでの数ヶ月間の生活様式、特に体長組成の移り変わりについての報告は見当たらない。 そこで著者はこの時期におけるメジナ幼稚魚の動態を把握することにした。
 調査は Fig.1 に示した静岡県下田市須崎の日本大学下田臨海実験所周辺のタイドプール、砕波帯 ならびに磯場で、1981,1988,1996および1997年にメジナ幼稚魚をタイドプールと砕波帯においては 手網、旋網を用いて群をすくい捕り、磯場ではオキアミを餌とした釣りによって採集した。 当該海域ではメジナ幼稚魚は3月初めにはごく一部のタイドプールに出現するがその数は少なく 、比較的まとまった数の群が出現するのは5月以降であり、8月以降は急激に数を減ずることが 経験的に知られている3)。そのため、ここでは3月から8月までに 採集されたメジナを対象とした。またメジナは荒磯の大物釣から沿岸磯場での小物釣まで、 その生活史の全てにわたって釣りの対象魚となっているが、今回の調査方法では大型の メジナの採集が困難であったため、まとめるにあたっては15cm以下のメジナを対象とした。 各年の採集尾数は1981年はタイドプールA(TA)のみで319尾、1998年はTAとTDで336尾、1996年以降は さらにTB、TCおよび砕波帯をも調査の対象とし、1996年ではTA〜TDおよびBで2850尾、 P1〜P3で419尾、1997年ではそれぞれ3329尾と693尾、合計7376尾であった。

Fig.1.Location of the Shimoda Marine Biological Laboratory, Nihon University and sampling points. Closed circles(TA〜TD,B)and open circles(P1〜P4)represent the sampling points at the pools, breaking zone for handing net or purse seine and angling points at rocky beach, respectively.

 採集は各月3〜4回であり、その時の海況や携わった人数によって採集尾数が異なっているものの 、概ねタイドプールや砕波帯では6月から7月にかけて多く採集される傾向が認められた。

Fig.2.Monthly changes of composition in body length of juvenile nibbler. Black and white bars show the sampling points of tide pool/breaking zone and rocky beach,respectively.
 月ごとの体長組成の傾向は調査を行った年では大きな差が認められなかったため、4年間を 一括して考察した。5mmごとの階級にまとめた体長組成の月変化をFig.2に示した。 手網によって採集された個体の中には比較的大型の個体が混在している場合もあるが、 これは夜間の干潮時にタイドプールの割れ目にひそんでいる個体を採集したものである。 水江ら4)、松原・落合5)、および吉原ら3)によると、この大きさはほぼ1年魚に相当するものである。 1年魚の習性として夜明け少し前に夜の休み場(高潮近く)から出て群れをなし、 水面に浮き、午前7〜8時頃沖に出て分散、日没前に夜の休み場に帰るとの報告があり 5)、そのような個体を偶然採集したものと考えられる。 このように例外はあるものの全般的にはタイドプールあるいは砕波帯において手網・旋網で 採集される個体と磯場での釣りで採集される個体とではモードを示す体長が明確に分離されて いることがわかった。しかし釣りで採集されるメジナは5月頃からより小型の方に裾をひくように なり、手網・旋網で採集される個体の体長と釣りによって採集される個体の体重とが重なっており、 このことから沖合いの産卵場から来遊した稚魚が、タイドプールあるいは砕波帯で成長し、 ある大きさに達した個体から遂次近くの磯場に生活の場を移して、釣り資源に加入するものと 考えられる。この時の大きさはほぼ4cmとみなせる。これは小川6) が全長4mmから37mmは表層生活、40mmの頃から海岸で定着生活に移ると述べていることと一致する。 一方、手網・旋網で採集される個体は2cm台が大部分であるが、5月から7月の間では1cm台のより 小型個体も多く出現している。本種の産卵期は本州北部で5〜7月、田辺湾で1〜2月、佐世保湾で 5月前後、九州で10〜6月、紀伊水道で10〜7月、太平洋南区で9〜5月と記載され7)、 地域によってかなりの幅があることがわかる。当該海域を含めた伊豆海域での本種の産卵期に ついての報告はないが、10月から解禁になるイセエビを目的とした刺網に混獲される30cm以上の メジナの卵巣の成熟状態からみて、冬季から春期が産卵期と推察される。 明らかでないが、5月から7月にかけて1cmから2cm台の稚魚が常に出現することは、沿岸への 来遊が同時に起こるのではなく、おそらく産卵期のずれによって来遊期が数回にわたること、 また、8月には出現していないことからそれ以前に産卵期は終了しているものと推察される。
今後は採集された個体の日令査定や標識放流などの調査から当該海域におけるメジナの 産卵期を確定したいと考えている。

謝辞:本報告をまとめるにあたって、各年度の採集作業に協力してくれた 星 一、山本卓也、谷合岳雄、原田尚幸、蔵方早苗、藤田千夏、柳原昌子および和田孝紀の 諸氏に深謝の意を表します。

文献

1) 森 圭一(1956):メジナの幼魚の社会構造、日本生態学会誌、5(4), 145-150.
2) 奥野良之助(1956):メジナ幼魚の群れ生活、日本生態学会誌、6(3), 99-102.
3) 吉原喜好、蔵方早苗、藤田千夏、柳原昌子、池上龍朗、和田孝紀(1998): 沿岸海域における標識メジナ稚仔魚の移動と成長について. 水産増殖 46(2),177-182(1998) 4) 水江一弘・小川能永・藤森常生(1960):メジナの年齢と成長について、長大水研報、9 1-14.
5) 松原喜代松・落合 明(1969):魚類学(下)、恒星社厚生閣、pp695〜697.
6) 小川良徳(1981) :魚類の成長に伴う行動の変化 ,(9).(社)日本水産資源保護協会月報,206.
7) 日本水産資源保護協会 (1983):水生生物生態 資料(続),pp.33-36.